元ほにゃらキッズメンバーインタビュー第1回「子どもの時にほにゃらと出会う」

第1回 子どもの時にほにゃらと出会う


生まれつき運動障害と軽度知的障害を持ち、電動車いすに乗っているSくん(24歳)は、小学校の頃からほにゃらキッズに関わり、高校卒業後、ひとり暮らしという形での自立生活をはじめました。Sくんがほにゃらキッズで経験したことや、ひとり暮らしを始めて、どのようにSくんらしく生活しているかについて、Sくんとお母さんに聞いてみました。また、小学生の頃からSくんにヘルパー(介助者)として関わっている松岡さんに、Sくんに関わる中で感じてきたことを聞いてみました。

第1回 子どもの時にほにゃらと出会う

第2回 介助者と一緒につくる自分らしい生活

第3回 ひとり暮らしを始めて変わったこと

 

 

 

 地域で生活する障害者との出会い

 

Qほにゃらに関わったきっかけは何ですか?

 

Sくん:「小学生の頃、友達のお母さんに誘われてほにゃらに行きました。ほにゃらに出会ってなかったら、障害者がひとり暮らしをするために使えるサービスがあることを、私も母も知らなかったと思います。」

 

お母さん:「ほにゃらを知る前は、大人の障害者は施設の中にいるのかなと思っていたので、初めてほにゃらに来て、重度障害を持っている人が地域で生活している様子を見て、障害があっても普通に生活できるんだと、すごい衝撃を受けました。

その頃、地域の障害児の親の会に入っていましたが、そこに参加していたお母さんたちの中では、障害児の介助は親がするのが当たり前という考え方で馴染めませんでした。

初めてほにゃらの事務所に電話した時、いきなり言語障害のある人が電話に出たんです。障害者自身が堂々と表に出ているのにびっくりしましたが、これがあるべき姿なのかなと思い、ほにゃらに関わっていこうと思いました。」

 

 

 

Qほにゃらキッズに関わって良かったと思うことは何ですか?

 

Sくん:「ほにゃらキッズで、親のいない場所で、介助者や大人の障害者と一緒に、調理実習や外出など、いろんなことをやったことです。最初は親がいなくて、トイレなどが不安でしたが、必要なことは介助者が親の代わりにやってくれました。みんなといろんなことをやる中で、困ったことがあったらすぐに介助者に頼んでいいということを学べました。

あと、自分と同じような障害のある大人に話を聞いたり、ひとり暮らしをしている障害者の家に行って、生活の様子を見ることで、自分ならどうするかを考える機会になりました。先輩の障害者から、外出の介助だけでなく、家の中でも介助を受けられる制度があることを聞き、自分もこれを使えばひとり暮らしができるかなと思いました。

ほにゃらキッズの活動だけでなく、生活の中で介助を使う経験をすることで、親の予定に関係なく出かけられる楽しさに気づき、これが自分のしたい生活なのかなと思いました。中学の時は、介助者と一緒にスカイツリーに行って、写真を撮りました。」

 

お母さん:「子どもの頃から介助者と外出することで、親も自分の人生に時間を使えるようになりました。Sが小学生の時に、私は出産前にやっていた仕事に復帰したんですが、福祉サービスを利用したから、できたことだと思います。」

 

松岡さん:「Sくんが小学生の頃から関わらせてもらうことで、Sくんの成長を一緒に見届けられました。

子どもの頃から関わると、将来どんな場所でどんな生活をしたいかを考え始める過程から関わることができます。大人の障害者と関わるときであっても、その家族とのコミュニケーションは大事ですが、子どもの頃から関わる方が、親御さんとのコミュニケーションが多くなり、お互いを理解する時間がたくさんとれると思いました。」

 

 

 

介助者や仲間と一緒に経験する

 

Qほにゃらキッズでやったことで、今も役に立っていることはありますか?

 

Sくん:「介助者と一緒にやった調理実習が役に立っています。

ひとり暮らしを始めた頃は、時間の管理が難しく、コンビニなどで弁当を買っていましたが、食費が高くなってしまったため、介助者と料理をするようになりました。料理をするときは、介助者と一緒に台所に行って、どのくらいの大きさに野菜を切るかなどを介助者に伝えて、その通りに切ってもらったり、作りたい料理をスマホで調べて、介助者と一緒に見ながら作っています。スマホのアプリを使って、自分の好きな献立を考えるのが楽しいです。」

 

お母さん:「ほにゃらキッズでは、子どもたち自身で調理実習のメニューや外出の計画を考えることが多かったです。今の息子がはっきり自分の意見を言えるようになったのは、そのような活動を通して、自分のことは自分で決めるということを身をもって学べたからだと思います。自分で決めていいんだという体験をしたことで、自分で決めるのが当たり前になったと思います。」

 

 

 

Q障害のある子が自分で決める経験をすることに、どのような意味があると思いますか?

 

お母さん:「障害児の親は、障害児を産んだ時点から社会的圧力を受け、どうにか自分の子どもが生きていくことを許される場所を探さなければいけないと必死になってしまいます。そうすると、子ども自身が決めるより、親が決めるほうが子どものためになるよねと思ってしまう。でも、子どもの思っていることと親の思っていることは違うので、子ども自身のことは子どもが決めるべきだと思います。自分で決める経験をしてこないと、いつまでも親が決めるのが当たり前だと思ってしまいます。親の言うことに従うのが自分の生き方だと思ってしまうと、生活の中で何か困ったことが起きても、自分自身の人生に責任を持てなくなってしまい、いつまでたっても親と子が離れられなくなると思います。」

 

 

 

Q自分で決めるということは、時にはうまくいかない経験をすることもあると思います。そのことについて、お母さんはどう思っていましたか?

 

お母さん:「最初は子どもが失敗するとかわいそうだし、できるだけ失敗させたくないと思っていました。

Sが親の付き添いなしで、介助者と一緒にバスに乗るようになったころ、自分でお金を払おうとして、小銭をバスの中にバラまいてしまったことがあったんですが、もし私が一緒にいたら、すぐに「お母さんが払ってあげる」と言ってしまったと思うんです。でも、自分でやろうとして失敗した経験があったからこそ、今度は介助者に手伝ってもらおうとか、どうすればいいかを考えられたのかなと思います。

自分で決めて、時には失敗する経験をすることで、失敗したあとにどう対処すればいいかを学ぶ機会にもなったと思います。そのような土台ができてないと、障害児が大人になっても、親が面倒を見ないといけないと思ってしまいがちだと思います。親のいないところで、介助者と一緒に失敗する経験を重ねたから、私もそれに慣れたのかなと思います。」

 

 

 

Qうまくいかなくても、そのあとにどうすればいいかをSくん自身が考えればいいと思えたことで、お母さんが変わったことはありますか?

 

お母さん:「昔は、Sに知的障害もあることを私自身が気にしていて、Sがおかしいことを言うと、静かにさせたくなっていましたが、それはSの後始末を親がとらないといけないと思っていたからだと思います。『自分で言ったことは自分で責任を取りなさいよ』と思ったら、Sの知的障害の部分はそんなに気にならなくなりました。」

 

 

 

 

 

 

 第2回へつづく