第3回

 

『子供のうちから経験すること』

 

『日常の中で選択をする』という経験を積む

川島さんと、川島さんの話を聞く金城さん

 

 

金城 「自立生活、つまり、自分らしい生活をするためには、ヘルパーを活用することが一つの手段なんですね。」

 

川島 「はい。加えて、私たちは、障害を持つ子が、子供のころからヘルパーと一緒に過ごすことをおススメしています。」

 

 

 

金城 「子供のころからですか?自立生活って大人になってからだと思うんですけど、どうしてそんな早くからヘルパーを利用するんですか?」

 

 

川島 「では、いきなりですが、金城さん、今日は飲み物、何を持ってきていますか?」

 

金城 「えっと、この水筒に入っているのは、水ですね。水道水です。」

 

川島 「どうして水を持ってきたんですか?」

 

金城 「どうして、ですか?うーん、お茶は作るのがめんどくさいし、買うとお金かかるし。別に常温の水は嫌いじゃないから、ですかね?」

 

川島 「なるほど。つまり金城さんは、いろんなことを考えたうえで、水を持ってくる、水を飲む、という選択をしたんですね。

飲み物を選ぶという小さなことですが、実はこの選ぶという作業ってなかなか大変なんですよ。今回のことを考えてみると、

・お茶を作ったことがあるからお茶を作るのがめんどくさいということがわかります。

・飲み物を自分のお金で買ったことがあるから、お金がかかることがわかります。

・常温の水は嫌いじゃないっていいましたけど、きっと冷たい水も飲んだことありますよね?冷たい水と常温の水を比較して、常温の水でも飲めると思ったんだと思います。

水を選ぶということだけでも、これだけの経験があったということになりますよね。」

 

金城 「考えていたつもりはなかったですけれど、こんなたくさんのことを考えて、水を選んでいたんですね!」

 

川島 「そうですね。例えば今の話で言うと、お茶を作ったことがあるということは、『お茶を作る』という選択をしたことがあるということですよね。

『今日、水を持っていく』という選択をする前には、『以前、お茶を作って持って行った』という選択をしたことがあるということです。

 

金城 「おおー、今日の選択の前に、また違う選択があったんですね。

つまり、『日常の中で選択をする』ためには、普段から『日常の中で選択をする』必要があるということですかね?」

 

川島 「そういうことです。少し複雑になってきましたが、簡単に言うと

とにかくたくさん『日常の中で選択をする』経験をすればいいということです!」

 

金城 「なるほど!簡潔で分かりやすい!」

 

川島 「そうやってたくさん経験をして、自分の好き嫌いがわかって、『自分らしい過ごし方』がわかっていくんだと思います。そして、選択するということができていくんだと思います。」

 

金城 「ふむふむ。あ、なるほど、ここから自立生活につながっていくんですね!

自立生活は『自分らしい過ごし方』をすること、でした。『自分らしい過ごし方』をするためには『日常の中で選択をする』経験をくりかえすことが大切ということですね!」

 

川島「そういうことです。特に障害を持つ子は、自分から選ぶことが難しい、自信がなくてなかなか「やりたい」って言い出せない、周りの大人がたくさん手伝いをしてくれるから、といった理由で、選択をする経験が少ない子供が多いんです。

そういった子も、子供のころからヘルパー利用をすることで

・『日常の中で選択をする』経験を増やすこと

・自分らしい生活・自分なりの選択をする練習をすること

ができます。大人になってからいきなり、全部自分一人で決めてくださいっていわれても困っちゃいますよね。なので、子供のうちからたくさん経験して、選択するということはどういうことか支援していきたいと考えています。」

 

金城 「なるほどなるほど、子供のころからヘルパーと一緒に過ごす良さがわかってきた気がします。」

 

 

 

『日常の中で選択する』とは?

 

 

金城 「では、ヘルパーを使うと、どのように『日常の中で選択をする』支援をしてくれるんですか?」

 

川島 「はい、まずヘルパーの特徴は、その子と一対一で時間を過ごします。ですので、その子のペースで行動することができます。」

 

金城 「その子のペース、ですか。大人の都合に合わせて急がされることがないということですか?」

 

川島 「そうですね、どんなに時間がかかってもOKです。

例えば、『何か飲みたい』と思ったとき、何を考えるでしょうか?

『どれを飲もうか』から始まり、『どこで買おうか』まで一緒に考えて選びます。選ぶのに時間がかかってもいいです。だって、飲み物の種類はたくさんありますし、買う場所だけでも自販機、コンビニ、ドラッグストア、スーパーなどたくさんありますよね。」

 

金城 「予算も決めなくてはいけないですよね。何気ない買い物でも、考えることはたくさんあるんですね。そう考えると時間がかかるのも納得です。」

 

川島 「時間がかかるかもしれないけれど、自分でたくさん考えて、悩んだ結果、やっぱり飲むのをやめてももちろんOKです。」

 

金城 「やめてもいいんですね!

そうか、自分の選択だから、絶対に飲まなくてはいけない、というわけではないですよね。」

 

川島 「はい、この場合は『飲まない』という選択をしたということになりますよね。

もちろん、『飲む』という選択をするかもしれません。いつも飲んでいるものを選んでも、新しいものに挑戦するのも良いですね。」

 

金城 「子供の頃って、新しいもの・味に挑戦する機会ってあまりなかったなって思います。親が出してくれたものや冷蔵庫に入っているものを飲んでいました。」

 

川島 「それが悪いことではありません。でも、新しいものに挑戦したら、すごく好きなものに出会えるかもしれませんよね。逆に、いろいろ飲んでみて、いつも飲んでいたものが好きだと気付けるかもしれません。」

 

金城 「新しいものに挑戦して、意外とおいしくなかったということはよくありますよね。」

 

川島 「選んだものが、いつも自分の好きな味であるわけではないですよね。やってみたら意外と好きじゃなかった、こう思えるのも、実際にやってみないと分からないです。」

 

金城 「チョコ味の炭酸水に挑戦して、おいしくなかったから親に押し付けて、怒られたことがありました。押し付けたことは悪いですけど、チョコ味の炭酸はもう選ばないぞって決意しました。こういうのって失敗からの学びっていうんですかね?」

 

川島 「失敗からの学び、いいですね。何かを選択するときには、失敗がつきものですから。失敗が嫌で、経験しない・させないということはよく聞きますが、何が失敗なのかわからないと、どんどん選択肢が狭まっていくのではないでしょうか。」

 

金城 「成功して、失敗して、何がいい選択だったのか、悪い選択だったのかわかっていきますからね。失敗を含めての『日常の中で選択』なんですね。」

 

川島 「また、嫌いな味の飲み物を買ってしまっても、捨てるわけにはいきませんし、お金は返ってきませんので、ほかの飲み物が買えません。自分で選択した後も投げやりになるのではなく、どう対処したらよいか一緒に考えます。

これまで言ってきた通り、成功だけじゃなく、失敗も体験することで、次の経験に生かせます。『日常の中で選択をする』そして、その後に起こる成功体験も失敗体験も支えていきます。」

 

金城 「自分のペースで決めることができて、『やる』も『やらない』も『嫌いなもの買っちゃった』でも、どんな選択をしてもいいし、支えてくれるんですよね。『日常の中で選択をする』ことを支援してくれるという意味が分かった気がします。」

 

川島 「伝わってよかったです。」

 

 

 

成功体験が自信になる

 

川島さんと、川島さんの話を聞く金城さん

 金城 「子供の頃って、自分で決めたものを飲めるってなんとなくうれしいですよね。自分で決めると鼻が高いというか。」

 

川島 「そうそう。子供は子供なりに一生懸命考えて、その子の選択をします。大人にとってみれば小さいことかもしれませんが、その子なりの自己決定で、それは大きな意味を持つかもしれません。そして、実際に決めて、行動できたら嬉しいし、自信もつきますよね。」

 

金城  「嬉しいし、自信がつくから、次もやりたいって思えますね。」

 

川島 「やりたいって思って、また選択して実行、うれしくて自信がつく。こういう良い循環ができるといいですね。」

 

金城 「素敵ですね。」

 

 

 

 

家族だけで抱え込まないで

 

川島 「『日常の中で選択をする』機会ってたくさんありますよね。」

 

金城 「飲み物を選ぶ、服を選ぶ、食べるものを選ぶ、交通手段を選ぶ、何をして遊ぶか選ぶ・・・。すごくたくさんありますね。」

 

川島 「これを全部家族がサポートすると考えると、どうですか?」

 

金城 「親が全部やってしまえばある程度楽なんだろうなって思います。でも、子供のペースに合わせるってなると難しいのかなって。よくスーパーでも「はやくしなさい!」って怒ってる親をよく見ますし。家族って忙しいですからね。子供のペースに合わせていると、予定がすべて終わらないんですよね。」

 

川島 「そうですね、家族って忙しいんです。子育てだけじゃなくて家事・仕事、ほかにもやらなくてはいけないことがたくさんありますよね。できればそうしたいけど、子供のためだけに時間を費やすことは難しいと思います。」

 

金城 「となると、今まで話してきた『日常の中で選択をする』ということを家族だけでサポートするのは大変そうですね。」

 

川島 「『日常の中で選択をする』サポートをする以外にも、子供のためにやってあげたいことはたくさんありますよね。でも、家族だけで解決しようと思う必要はありません。家族が頑張りすぎてしまうと、子供もプレッシャーに感じてしまうかもしれません。」

 

金城 「親の緊張とか、ピリピリしてるなって、子供は敏感に感じ取りますよね。」

 

川島 「なので、家族以外の人やサービスに頼るというのはどうでしょうか。例えば、放課後デイや、ショートステイ、作業所、そしてヘルパーです。」

 

金城 「ここでヘルパーが出てくるんですね。たしかに、家族だけで子育てのすべてを完璧に担うことは難しそうですから。幼稚園や保育園に通わせるのと同じように、ヘルパーを利用することは自然なように感じます。」

 

川島 「家族以外の人と過ごすことで、子供はいろんな価値観や情報に触れることができます。様々な人とコミュニケーションをとることができます。しかも、家族はその時間休めますし、好きなことに時間を使うことができます。こういった点は、金城さんの言う通り、幼稚園や保育園に通わせることと同じような意味かもしれません。家族だから、親だからってすべて抱え込む必要はありません。当たり前ですが、休むこと・好きなこと・仕事をやったっていいんです。」

 

金城 「家族が休むこと、そして子供がいろんな人と接することができるんですね。適度に人やサービスに頼ることは家族にも子供にも嬉しいことで、あたりまえのことなのかもしれませんね。」

 

川島 「そうですね。そして、家族以外の人と接している子供のことを見たとき、家族は子供の新たな一面を見れるかもしれないですね。」

 

 

 

 

 

「時間」に関して、ヘルパーの特徴

 

川島さんと、川島さんの話を聞く金城さん

 川島 「これからは、とくに『時間』に注目して、ヘルパーの特徴を話そうと思います。」

 

金城 「今までは、一対一の良さ、自分で決めることの良さ、家族が休める良さ、についてでしたね。『時間』とはどういうことですか?」

 

川島 「まずは、大きな時間の縛りがないということです。やりたいことによって長時間でも短時間でも選べます。もちろん、開始時刻や終了時刻も。放課後でも休日でも平日でも。希望に対応しやすいということです。」

 

金城 「放課後デイでは放課後のみもしくは、長期休暇の平日だけ。作業所では日中の指定された時間のみ。確かに、サービスによって時間帯は決まってますよね。ヘルパー利用には、そういった時間指定がないということですね。」

 

川島 「そのとおりです。

今日はお出かけしたいから来てください

今日は家族が忙しいので放課後の時間にお願いします

というように時間を選ぶことができるということですね。

また、毎回同じ時間数でなくてはいけないということではありません。今回は買い物で1時間の利用だったけど、次は少し遠くにお出かけに行くので5時間利用する

ということも可能です。」

 

金城 「都合によって変えられるのは、便利ですね!ヘルパーの強みだと思います。」

 

川島 「また、その時間の中で何かをしなくてはいけないということではないです。遊ぼうと思っていたけど、ゆっくり過ごすだけでもいいし、やっぱり遊びに行ってもいい。    ヘルパーとの時間は本人が自由に使っていいんです。」

 

金城 「『やらない』という選択ですね!」

 

川島 「そういうことです。

さて、今は利用時間としての『時間』の話をしました。次に、長い目で見た『時間』の話をしようと思います。

子供のころからヘルパーと一緒に過ごすと、子供とヘルパーの間に関係性ができますよね。」

 

金城 「関係性って大事ですよね。初めましてとか、数回しか会ったことがない人とはうまくコミュニケーションが取れないですから。」

 

川島 「あまり会ったことのない人には、警戒心がありますし、最初からうまくコミュニケーションは取れないと思います。そういう人と二人きりになると、どうでしょうか。」

 

金城 「子供もヘルパーも、どちらにとっても不安だと思います。ヘルパーはやりたいことのお手伝いをするわけですから、子供のことをよく知っていたほうが一緒にできることが増えると思います。子供にとっては、ヘルパーは日常生活を共にする人ですから、安心できるような存在でないといけないと思います。どちらにとっても安心できる関係性が必要なんですね。」

 

川島 「そうです。例えば『食事をしたい』なら、態度や言葉で伝えることが必要です。まず、子供にとっては、知らない人、関係性ができていない人に対して、そのようなことを伝えることは難しい、というのは何となく想像できますよね。ヘルパーにとっても、子供がそのようなサインを出しているのに気づかない場合がありますよね。」

 

金城 「身近な家族や一緒にいる時間が長いのであれば感じ取れたかもしれないけれど、一緒にいる時間が短いと、なかなか感じ取ることは難しいですね。

 

川島 「子供は相手に『○○したい』と伝える練習をしなければいけないですし、ヘルパーも子供のサインを感じ取り、あるいは何がしたいのかを感じ取る練習をする必要があるんです。

なので、子供にとってもヘルパーにとっても一緒にいる時間をとり、関係性を築くことが重要なんです。」

 

金城 「ふむふむ。そのような関係を築くためには、一朝一夕じゃ難しそうですね。」

 

川島 「時間はかかると思います。一緒に過ごす中で、成功も失敗も経験することで、お互いを理解できていくのではないでしょうか」

 

金城 「お互いに安心できて、やりたいことを伝える・感じ取る関係を作れると良いんですね。そしてそのためには、長い時間をかける必要がるということがわかりました。」 

 

 

 

 第4回へつづく